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九州大学比較社会文化研究院
2012年度研究院プロジェクト研究(2012年7月申請)

「震災と日本の総合研究─震災復興と原発事故を中心に」
 
(略称 比文・震災研究)
 1.研究概要

 比較社会文化研究院は、中期計画に、「学際化・国際化・総合化をキーワードとして、人文科学、社会科学、自然科学の方法を総合し、環境変動・文明共生・日本研究を推進し、現代の諸課題を解決するための知の基盤を構築する」とうたっている。本研究プロジェクトは、人文科学、社会科学、自然科学を専門とする比文スタッフと学生が結集し、東日本大震災を契機にあらわになった現代日本社会の課題に取り組み、上記の中期計画に謳われた知の基盤の構築に取り組むものである。


 (研究目的)

 本研究の目的は、東日本大震災からの復興のための課題を分析・整理し、その課題に対する対応策を検討し、今後の教訓とすることである。

 東日本大震災の発生から今年の7月で1年4ヶ月が過ぎた。主なライフラインや公共サービスは、家屋等流出地域、原発警戒区域等をのぞき、ほぼ復旧をしている。本年5月18日の復興推進会議資料によれば、被災地域の鉱工業指数は震災前の水準を上回り、岩手・宮城・福島の主要漁港の水揚げは2010年3月比で約8割に回復するなど、農業、水産業、さらに観光業の改善も見られる。

 しかし、避難者数はなお34万人余りにのぼり、数多くの人に住宅再建という課題が待ち構えている。しかも高台移転という難題を伴う地域も多い。被災市町村は復興計画を策定し、土地区画整理事業、防災集団移転促進事業等などの個別事業の計画策定と実施に取り組まなければならないが、ここでは行政と地域住民の調整が大きな課題となる(①住宅・集落復興)。

 このような地域復興と同時に取り組まなければならない課題が、コミュニティの弱体化、孤立化である。コミュニティを守るためには、高齢者への見守り活動や心のケア、生きがいづくりなどの支援事業だけでなく、祭りや文化財などの地域社会の文化的遺産による絆の再生などが課題となっている(②コミュニティ復興)。もちろん、このような個々の生活やコミュニティの再生が進められるためにも、その土地での人びとの生業が成り立たなければならない。雇用の回復や産業の復興が喫緊の課題である所以である(③産業復興)。

 以上に加えて、今回の震災で大きな問題であるのが、福島原発事故対策である。被災者への賠償とともに、除染やインフラ復旧を進め、避難者の帰還を実現しなければならない(④原発事故からの復興)。

 以上は、被災地を中心としてみた場合の課題である。大震災が日本社会に突き付けた課題はこれにとどまらない。原発事故は日本の今後のエネルギー政策の方針決定を迫っている(⑤エネルギー政策)。大飯原発再稼働反対デモにあらわれた民意と政策との乖離や、日本の政策決定システムにおいて決定的な重要性をもつ日米同盟の問題性が露見している(⑥日本の政治システム)。

 それだけではない。今回の震災は、地震予知に力を入れてきたこれまでの地震学者や、原発を絶対安全と言ってきた原子力研究者の信頼性をひどく損なった。これは、当該研究領域の研究者だけの問題ではなく、学問と社会との関係そのものを問いかけるものである。特に、大地動乱期とも呼ばれる現代において、地震学の成果を今後の震災対策にいかに活かしていくことができるかは重大な課題である(⑦アカデミズムの課題)。

 本研究プロジェクトはこれら多様な課題を視野に納めつつ、特に震災復興と原発事故対策に焦点を絞って、震災の課題を分析し、今後の教訓とする。
 2.研究計画・方法

(1)研究推進体制

 本研究プロジェクトは、震災後1年以上を経て露呈してきた以上の課題について、昨年の研究体制(下記の1.、2.、3.)にさらに2名を加えた陣容で取り組む。

 1.「地震と日本列島」:日本列島における今後の地震予測の先端的研究をフォローし、その成果を社会に還元する、また日本列島の住民がこれまでどのように地震などの災害に向き合ってきたのかを解明し、その成果を社会に伝達する(上記の課題⑦)。

 2.「災害と市民型社会」:震災後のエネルギー政策、減災のための都市計画などの具体的な問題を素材にしながら、これらの具体的な問題に市民が関わる市民型社会の構築に向けての問題点を明らかにする。この領域に関しては、特に津波被災地を中心とした2−1「地域復興」(①、②、③)と、2−2「原発事故対策」(④、⑤、⑥)に分けて、昨年よりも陣容を強化して取り組む。

 3.「被災者とケアの倫理」:過去の大災害において実践されたケアに関する先行研究を踏まえたうえで、より善きケアの体制を構想する。また誰もが被災者にもケアする側にもなりうるという観点から市民の倫理を再考する。そこには、〈痛み〉をいかに表現し、分有しうるのかという問いの探求も含まれる。これはたんに社会制度の問題にとどまらず、痛みを汲み取る、私たちの言葉の厚みの問題でもある(①〜⑦に関わるが特に②、④)。


(2)共同研究会

 それぞれの個別の研究をもちよって、共同研究会を開催する。それぞれのテーマについて最低一回ずつ合計4回以上の共同研究会を実施する。本研究会は比文の学生にも広く広報して参加を促し、各自の研究の一助となるよう配慮する。


(3)シンポジウムの開催

 震災から2年目を迎える3月初旬に、昨年に引き続き2回目のシンポジウムを開催し、被災地の状況と今後の課題について広く市民に伝える場を設ける。
 なお、共同研究会、シンポジウムの成果は、比文ホームページを通じて公開する。

▼【旧年度版】
九州大学比較社会文化研究院
2011年度研究院プロジェクト研究(2011年7月申請)

「震災と日本の総合研究」(略称 比文・震災研究)
 1.研究概要

 比較社会文化研究院は、中期計画に、「学際化・国際化・総合化をキーワードとして、人文科学、社会科学、自然科学の方法を総合し、環境変動・文明共生・日本研究を推進し、現代の諸課題を解決するための知の基盤を構築する」とうたっている。本研究プロジェクトは、人文科学、社会科学、自然科学を専門とする比文スタッフと学生が結集し、東日本大震災を契機にあらわになった現代日本社会の課題に取り組むための知の基盤を構築する試みである。

 本研究は、震災を通してあらわになった複合的な問題状況を、比文の特長である学際的な手法から解明することを試みる。具体的には、以下の三つの観点から、学際的な手法を取り入れた総合的な研究を推進する。

 ①自然と人間という視点。震災は、人間の営みが自然のもとで可能となっていることをあらためて教え、日本列島という大地のうえでいかなる社会を築くべきか、再考を迫っている。このような問題を考えるための基礎研究として、日本列島の地質学・地震学の研究、またその先端的な研究成果の社会への還元のあり方を考察することが課題となる。また、列島の災害の歴史を掘り起こし、それを後世に伝えていくことも大きな課題である。

 ②災害と社会という視点。災害への対応は迅速で適切な意志決定と行動を必要とする。しかし危機における政府の行動は、民主的な意志決定と相性のよいものではない。地震などの巨大な災害リスクに対応しうる民主的な市民型社会はどのようにして築くことができるだろうか。この課題は、主たるエネルギー源をどれにするのか、減災のための都市計画をどのように進めるか等の具体的な課題と関連する。

 ③ケアの倫理という視点。被災者をいかに支援しケアするかというのは、まさにその社会の質を問う課題である。ケアは、医療従事者などの専門的技能者ばかりでなく、社会構成員すべてが関わることができる。専門的なケアの現場をふまえた、より善きケアの模索、また、誰もが被災者になりうることを想定した、しかし統治者の観点から押し付けられるものとは異質の市民倫理の探求が課題である。


 (研究目的)

 震災、あるいは広く自然災害は、自然の営みが人間の営みに与える作用の結果である。かつてリスボン大地震に際してルソーが述べたように、そこに人間がいなければ災害はない。ところが人類の人口は今や70億に迫ろうとしており、その数は人類の誕生以来生まれた人間の数の5分の1を占めるとも言われている。自然の営みが災害となって人間に降りかかるリスクがかつてなく高まっている。なかでも、有史以来600回以上の地震被害の記録が残されている日本は、自然災害のリスクがもっとも高い地域の一つである。しかも、地震学によれば日本列島は現在、大地震活動期に入っている。

 今回の東日本大震災は多数の人命と巨額の財を奪い去っただけではない。それに引き続いて制御不能となった福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故は、数えきれぬ人々の生活基盤を奪い去り、深刻なエネルギー問題を招いている。被災者の生活支援や地域復興、原発周辺地域住民の避難や食の安全の確保、電力・エネルギー問題─これら複合的に重なって迫りくる課題への政治の対応は、政治的指導力への決定的な懐疑や不信を招いている。

 ここで明らかになったことは、自然の営みが人間の災害となるリスクがかつてなく高くなる一方で、それに対応する人間の側の体制が十分に整備されていないということである。高度文明社会における災害は複合的な形をとって人間を襲う。これに対応するためには、政府や自治体の危機管理能力のみならず、社会の諸領域間の対話や多様な組織の連携、個人の自律的判断の材料となる科学や情報のリテラシーを平素から養っておくことが必要である。

 本研究は、以上のような問題意識に基づいて、震災によって突き付けられた日本社会の諸問題を、概要で述べた三つの視点から整理・追究し、災害に関わる諸課題に取り組むための学術的な基盤を整えるとともに、その成果を社会に発信することを目的とするものである。
 2.研究計画・方法

(1)概要で述べた三つの観点から、研究領域を次のように整理分担し、各自、分担の研究を推進する。

 1.「地震と日本列島」:日本列島における今後の地震予測の先端的研究をフォローし、その成果を社会に還元する、また日本列島の住民がこれまでどのように地震などの災害に向き合ってきたのかを解明し、その成果を社会に伝達する。

 2.「災害と市民型社会」:震災後のエネルギー政策、減災のための都市計画などの具体的な問題を素材にしながら、これらの具体的な問題に市民が関わる市民型社会の構築に向けての問題点を明らかにする。

 3.「被災者とケアの倫理」:過去の大災害において実践されたケアに関する先行研究を踏まえたうえで、より善きケアの体制を構想すること、また誰もが被災者にもケアする側にもなりうるという観点から市民の倫理を再考する。そこには、〈痛み〉をいかに表現し、分有しうるのかという問いの探求も含まれる。


(2)共同研究会

 それぞれの個別の研究をもちよって、共同研究会を開催する。それぞれのテーマについて最低一回ずつ、また全体に関して一回、合計4回以上の共同研究会を実施する。そのうち、各テーマずつ1回は外部から講師を招聘し、研鑽を深めることとする。本研究会は比文の学生にも広く広報して参加を促し、各自の研究を進める一助となるよう配慮する。


(3)シンポジウムの開催

 共同研究会の成果をもとに、年度末にシンポジウムを開催する。シンポジウムは福岡市の中心地で実施し、広く社会に成果を訴えることとする。
 なお、共同研究会、シンポジウムの成果は、比文ホームページを通じて公開する。次年度以降は、これらの成果をもとに研究グループのさらなる展開を構想する。