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 2011年度 研究支援 成果報告

ポスト=ヴァナキュラー論の形成―21世紀におけるマヤ(系)語の可能性
太田 好信
 比較社会文化学府・国際社会文化専攻の理念の一つは、次のような問題意識である。「異なる社会に暮らし、異なる文化を生き、異なる言語を話す人々の間には、誤解が生じ、差異を相克性へと変えてしまう。そんな事態を避け(中略)コミュニケーションというもの自体についての透徹した研究」が不可欠である、と。本研究プログラムは、この問題意識の前提にあるグローバル化がつくりだした現象として、「ポスト=ヴァナキュラー性(postvernacularity)」―母語という概念の前提にある社会、場所、ならびに民族との間に有機的連関を想定しない言語観―という概念のもとに、21世紀の社会、言語、民族、場所の諸関係を再考することを目指した。その問い直しにより、本学府でも重要な研究・教育理念の一つであるコミュニケーションという行為そのものについて考察した。

 グローバル化の一つの帰結は、近代以降ますます加速した脱領域化であった。社会、言語、民族、場所の間にあった有機的関係は失われ、話者人口の激減による言語共同体の崩壊、そして言語の消滅すら叫ばれている。しかし、反対に、これまで消滅宣言されている言語が、思わぬ場所で復活していることも事実である。たとえば、北海道各地や東京でのアイヌ語教室の開催、世界各地でのフラの習得と連動したハワイ語学習者の増加、沖縄本島での「ウチナー口のラジオ講座」の展開などもある。また、イディッシュ語のように、言語を母語とする共同体が社会的機能を喪失した後も、それを第二言語として学び直し、それにより日常生活や芸術(詩や文学作品)活動をおこなうケースもある。21世紀に入り、「言語のパフォーマティヴィティ(performativity)」とでもよべる領域が拡大しているのである。

 これらの事実から、21世紀においては社会、言語、民族、場所を一体化した視点は疑問視される場合が増えていることがわかる。これまで以上に、コミュニケーションはその根底から再考されるべき状況になっている。換言すると、21世紀における言語と社会の関係の特徴は、そのポスト=ヴァナキュラー性にあり、それがコミュニケーション一般をモデル化するときには不可欠な認識となる。それは、ナショナリズムには帰結しない言語やコミュニケーションの在り方へと向かうと想定される。

 本研究院の「特色ある研究プログラム支援経費」の補助を受け、本年度はグアテマラ共和国のマヤ言語の一つであるカクチケル語の復興の理由を、これまで収集した資料から解明した。言語復興のかげには、非政府組織からの教材作成や学習環境整備への支援だけではなく、経済的インセンティヴも加わっていることも判明した。

 当初から、本研究プレジェクトはより長期間の研究への第一歩として位置づけていた。平成22年10月にこのテーマを発展させ、科学研究費・基盤研究(C)に代表者として応募し、幸いにも、採択された。課題名は、「ポストヴァナキュラー論構築の試み」(課題番号:23520990)である。最後になるが、本研究プジェクトへの支援に対し、深謝したい。