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 2011年度 研究支援 成果報告
コピーとオリジナルの観点から見たドイツと日本の民衆歌謡の比較考察(2)
嶋田 洋一郎
 前年度の同名の研究プログラムにおいて申請者は、18世紀ドイツの思想家ヘルダーの「コピーするオリジナル」という言葉を手がかりに『民謡集』(1778年)におけるヘルダーの翻訳観について考察を行った。そこで明らかにされたのは、ヘルダーの基本理念が作品の精髄を「音調」(Ton)という形で読者に提示するということである。ちなみにヘルダーの翻訳観については、論文「ヘルダーと翻訳」(『通訳翻訳研究』日本通訳翻訳学会,No.11, 2011, pp.15-23)にまとめられている。

 今回の研究では、ヘルダーの『民謡集』にも収められたゲーテの「野ばら」や「魔王」などの「ドイツ・リート」が明治以降の日本の音楽文化に与えた影響から始まり、さらに第二次大戦後の日本におけるアメリカの音楽文化の受容について考察する。そこでの問題は西洋音楽の先進国の歌がどのような形で日本語に翻訳されたのかということであるが、重要なのは、こうした形での翻訳を先進国のオリジナルをいわば受動的に日本語に翻訳するというふうに一面的に理解するのではなく、こうした翻訳行為を独自の創作行為としてとらえるということであろう。こうした見方はコピーとオリジナルを対立概念とするのではなく、一種の相互補完関係と見なすものであり、本研究ではこの問題を特に「カヴァー・バージョン」という形において考察する。近代日本の民衆歌謡史における有名なものとしては第二次大戦後にアメリカでヒットしたポール・アンカの「ダイアナ」(1957年)が日本語の歌詞で1960年に山下敬二郎によって歌われた例が挙げられる。その背景には、当時の民衆音楽文化の最先端にあったアメリカの音楽が旧来の民衆音楽に飽き足らなくなった日本の若者に訴えかけたという状況が想像されるが、本研究では、これをたんに戦勝国アメリカの音楽文化が敗戦国日本の音楽文化を席巻する、あるいはアメリカというオリジナルを日本がコピーするというふうにとらえるのではなく、コピーとオリジナルの相互補完的関係が民衆歌謡の本質を成しているのではないかという前提から出発し、ヘルダーの『民謡集』を題材として鋭意、研究を継続中である。