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 2010年度 研究支援 成果報告
 2011年度 研究支援 成果報告
「公共圏」概念におけるナショナルな文化の位置づけに関する政治理論的研究
施 光恒
●本経費申請書に記載した研究目的
 本研究支援経費を申請した際の研究計画には、主に以下の三点に取り組むと記した。
  A.ナショナルな文化が、「公共圏」の形成にいかなる役割を果たしているかを検討し、それを「公共圏」の理論に適切に組み込む。
B.従来の「公共圏」をめぐる諸理念は、実は欧米諸文化の影響を強く受けて構成されているものではないかという視角に基づき、日本における「公共圏」の成立の過程を参照しつつ、従来の「公共圏」に関する理論的理解の修正を試みる。
C.ナショナルな文化のもたらす包摂および排除の作用を念頭におきつつ、複数の「公共圏」からなる公正な世界秩序のあり方を、昨今のナショナリズムやコスモポリタニズムの理論を参照しながら考察していく。

●主に実施したこと
 本経費を用いて、下記の二つの論考につながる研究を進めることができた。
(1) 施 光恒「リベラル・ナショナリズムの世界秩序構想――D・ミラーの議論の批判的検討を手がかりとして」(富沢克編『リベラル・ナショナリズムの再検討――国際比較から見た新しい秩序像』ミネルヴァ書房、2012年、139-162頁、所収)。
(2) 施 光恒「近代社会の基礎としての『翻訳』と『土着化』を通じた公共空間の形成――「ボーダーレス世界を疑う」再論」(京都大学グローバルCOEプログラム 親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点(GCOE理論研究班)編『歴史概念としての<公共圏>と<公共哲学>――リベラル・モデルとは異なる公共性の別様の理解をめざして――』、2012年、28-41頁、所収。
 また、本研究にかかわる次のシンポジウムを2011年12月に主催した。シンポジウムの直接の費用は、下記に記した私の科研費から支出したが、準備のために必要な書籍などは本研究支援経費の一部を用いて購入した。
(3) シンポジウム「シヴィリティをめぐる東西の対話――礼節、市民性、公共圏――」(主催 九大比較社会文化研究院 施光恒研究室(科研「日本文化に根差した『共生』理念に関する政治理論的研究」2011年~2013年度、基盤研究C)、共催 九州大学政治研究会)。
 このシンポジウムでは、ニュースクール大学の池上英子氏など一線の研究者をパネリストに招いて、日欧の公共圏の発達史などについて検討を行った。
 (なお、シンポジウムの記録は、『政治研究』(九州大学政治研究会)、第59号、2012年、43-46頁に掲載されているので、ご参照願いたい。)

 ●本研究を通じて得られた知見
 上記のAについては、ウィル・キムリッカらのリベラル・ナショナリズムの政治理論を参考に、(2)で、西洋、ならびに日本の歴史的事実に言及しつつ、ナショナルな言語や文化の普及が、公共圏の成立に不可欠であることを論じた。
 Bに関しては、池上英子氏の議論などを手がかりとしながら、主に、(3)のシンポジウムで検討を行った。欧米とは異なる市民性の実践の歴史、ならびに公共圏の理解が、日本にはあるといえるという議論を行った。
 Cについては、主に(1)において、公共圏の形成には、それぞれの国のナショナルな文化や言語が不可欠であるということなどから、あるべき世界秩序像を考察した。結果的に、「ボーダーレス化」を旨とする現在優勢な秩序構想ではなく、「それぞれの国が積極的に学びあう、公正なる棲み分け型多文化共生世界」こそが目指すべき世界秩序であると論じた。


 末筆で恐縮であるが、本研究支援経費の助成に対する感謝の意をここで表したい。