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 2010年度 研究支援 成果報告
 2011年度 研究支援 成果報告
新しい動的環境指センサーとしてのクワガタムシやカブトムシの利用可能性の検証
荒谷 邦雄
 特異的な環境要求性を示す種が数多く見られる昆虫類はこれまでにも有用な環境指標生物として利用されてきた。しかし、これまでの研究例は環境要求性の異なる種同士の棲み分けに注目して環境を指標化しようとするものがほとんどであったため、比較的大掛かりな群集調査の実施に加え、確実な種同定と各種の環境要求性に関する知見の集積が必須であった。これに対し、種の同定も容易で見つけやすい上に、後天的な環境要因によって顕著な形態変異が生じることが明らかな分類類を利用すれば環境指標生物としての利便性、汎用性は大きく増大することが期待される。

 この観点から、本研究では古くから日本の夏の風物史として親しまれてきたクワガタムシやカブトムシを新しい動的環境指センサーとして利用する可能性に関して、野外調査と飼育実験、及び所蔵標本調査の各方面のデータに基づいて検証した。

 まず、野外調査によって、宮崎県南部のダム建設工事現場において、工事の進行に伴って、現地で採集されるカブトムシやクワガタムシの成虫の大きさが、特に雄において急速に著しく小型化したことを明らかにした(図1)。一方、同じ親から生まれ、遺伝的な特性に差異がないカブトムシの幼虫を、温度や湿度、個体密度などが異なる条件下で飼育した結果、高温や低温、乾燥や多湿、過密など適切でない条件下で飼育した個体はいずれも好適条件で飼育した対照群の個体に比べて小型の成虫として羽化し、乾燥による小型化が最も著しいことも判明した。これらの結果から、ある地域のカブトムシやクワガタムシの成虫の大きさの変化、特に小型化の傾向の有無を調べることで、該当地域の個体群が生息する環境に生じた悪化の程度が推定できる可能性が示唆された。

 また、ミヤマクワガタに見られる、大アゴの形態と脚部腿節の色が異なる「エゾ型」、「フジ型」、「サト型」の3つの「型」が、従来考えられてきたような地理的変異ではなく、幼虫時代の生育温度によって決定される「生態型」であることも飼育実験によって確認した(図2)。この飼育実験の結果と合わせて、日本各地のミヤマクワガタの採集記録や博物館に所蔵されている様々な時代の標本を精査することで、地球温暖化やヒートアイランドによる近年の気温の上昇の様相を再現できる可能性も示唆した。

 これらの成果の一部は日本昆虫学会第71回大会(2011年9月19日於信州大学)において「新しい環境指標生物としてのクワガタムシとカブトムシの利用可能性を探る」の演題で公表されたことに加えて、NHKの特別番組「ちょっと変だぞ日本の自然〜新型生物誕生〜」(2011年8月10日放送)で紹介されるなど社会にも貢献した。

 今後は日本産の各種はもちろん、アジア諸国に生息する種にその対象を拡大し、国際的な研究プロジェクトとしての展開を図る。また、環境因子がクワガタムシやカブトムシの角や大アゴを形成する遺伝子の発現に関与する仕組みの解明と、その結果が適応進化に及ぼす影響の解析によって、最先端の分子生態学と進化発生学分野をつなぐ学際研究としての発展も試みたい。

   図1:宮崎県南部のダム建設工事現場で観察されたカブトムシオス成虫の体長変化。工事に先立つ伐採が始まった2008年頃から小型化が始まり、本格着工後の2010年以降急速に小型個体の割合が増えたことが見てとれる。

   図2:ミヤマクワガタの雄に見られる「生態型」。幼虫の飼育実験の結果、およそ20℃を境に低温でエゾ型、高温でサト型が羽化することが明らかとなった。