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 インタビュー  
 
 
アジア地域のタマバチの多様性解明を目指す
 
お 話:比較社会文化学府教員 阿部 芳久
 
聞き手: 本日は、昨年(2010年)、伊都キャンパスの「生物多様性保全ゾーン」で新種のタマバチを発見され、マスコミ等でも大きく取り上げられた阿部芳久先生にインタビューをさせて頂きます。ちなみに、昨年、マスコミで取り上げられた際には、私のところにも義母からメールが送られてきて「すばらしい発見ですね。感動をありがとう!」と言っておりました(笑)。


(写真:新種のタマバチを発見された阿部芳久先生(研究室にて))


阿部: ありがとうございます。お母様には、くれぐれも宜しくお伝え下さい。この新種のタマバチを記載・命名したのは、私と指導する大学院生2名(博士課程の和智仲是君と修士課程の井手竜也君)による研究グループです。タマバチは、体長5ミリ以下の小さなハチで、植物に「虫こぶ」と呼ばれるコブのようなものを作り、その中で幼虫から蛹へと成長し羽化するのが特徴です。コナラ属の植物は、多くの種が落葉性のコナラ亜属とすべての種が常緑のアカガシ亜属の二つに分けられます。これまで、コナラ亜属の植物に寄生するタマバチが世界で約1,000種も知られていましたが、アカガシ亜属からは全く知られていませんでした。今回、私たちが記載・命名した新種のタマバチはアカガシ亜属のアラカシに寄生しますので、アカガシ亜属から初めての種ということになります。アカガシ亜属はアジアだけに分布する植物であり、今回の発見は、今後、アジア地域のタマバチの研究に寄与するものと考えています。今回の発見で、伊都キャンパスの保全ゾーンの自然環境が貴重であることが証明されました。
ちなみに、新種の学名は「プラギオトロクス マスダイ」、和名は「マスダアラカシタマバチ」と命名されました。学名の種小名と和名は、日本産タマバチの生活環の解明に大きな貢献をされた故 桝田 長(ますだ ひさし)氏に献名しました。


(写真:今回発見された新種のタマバチ(阿部先生からのご提供による))


聞き手: 貴重なご発見だったのですね。伊都キャンパスに、このような未発見の生物が存在していたことには、率直に驚きました。ちなみに、日本には、あるいは別の地理的範囲でも良いのですが、このような未発見の種類のハチは、どのくらいいると予想されるのでしょうか?

阿部: タマバチだけに限っても今後、日本から10種以上の新種が見つかると思います。実は、われわれの研究グループは、伊都キャンパスでアラカシに虫こぶを作る新種のタマバチをもう1種、見つけています。その新種には伊都キャンパスに由来する学名を付ける予定です。

聞き手: とくに、常緑性の植物に寄生するタマバチが発見されたのは今回がはじめてということですが、今後の研究の可能性が広がったと言えるのでしょうか?

阿部: 常緑性のアカガシ亜属は約150種が知られ、アジアに広く分布しています。アカガシ亜属の分布の北端である日本においてアラカシ1種を調べただけで、われわれの研究グループは新種のタマバチを見つけることが出来ました。今後、アジアの各地でアカガシ亜属の植物を調べれば、数多くの新種のタマバチが見つかるものと期待されます。コナラ属を寄主とするタマバチの祖先はもともとコナラ亜属を利用していたのか、それともアカガシ亜属を利用していたのか、など寄主植物利用の進化の観点から興味のある問題です。それとも関連してコナラ属を寄主とするタマバチの起源も解明したいと思っています。キンゼイレポートで有名なキンゼイ博士は、性の科学者として名をはせる前には、タマバチの分類学者でした。彼はコナラ属を寄主とするタマバチをたくさん記載し、アメリカではアジアやヨーロッパより種数が多いので、これらのタマバチの起源はアメリカであると考えました。しかし、研究が進めばアジアの方がアメリカよりもタマバチの種レベルの多様性は高いということになるかもしれません。今後はアジアとアメリカ、ヨーロッパのタマバチの系統解析をおこなうことによって、タマバチの起源に迫れるのではないかと思います。


(写真:共同研究者の井手さん(左)と和智さん(右)とともに(標本室にて))


聞き手: へー。素人の印象にすぎませんが、まだまだ多くの研究の可能性がありそうな分野のようですね。ちなみに、研究成果は学界などでも発表されたのですよね。

阿部: はい。『Annals of the Entomological Society of America』というアメリカの権威ある昆虫学会誌で発表しました。研究グループに参加している大学院生諸氏のがんばりもあって、研究開始から、約1年という短い期間で研究成果を出すことができました。研究の苦労については、今月(2011年1月)末掲載予定の『九大広報』に掲載されますので、そちらをご覧下さいますと幸いです。

聞き手: そうですか。是非、拝読させて頂きます。最後に学生さんや大学院受験者にメッセージなどを頂けると幸いです。

阿部: 比較社会文化学府では昆虫分類学の伝統がありますので、主に昆虫などの動物を研究対象として、分類学、系統学、生態学、生物地理学、保全、動物と植物の相互作用など、さまざまな観点から生物多様性に関する研究をおこなう学生が切磋琢磨しています。動物や植物の多様性に関心のある学生の受験を歓迎します。
聞き手: 実際に研究を進めるときには、もちろん色々と大変なこともあるでしょうが、未知の生物の発見や分類を行うというのは、本当にロマンがある研究分野のように思います。阿部先生、本日は、お忙しい中、まことにありがとうございました。
(聞き手:比較社会文化学府教員 阿部 康久)