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 文化人類学を学びたい、あなたに!  
 
担当教員:太田好信、古谷嘉章

 文化人類学には興味はあるけれども、その内容がよく分からず、躊躇している方々、わたしたち教員も、「文化人類学とはどのような学問ですか」と問われて、返答に窮したという経験は数多くあります。その歴史を説明すれば、十分だろうか。その方法論を述べることが先だろうか。そもそも、この問いへの答えは、人類学者たちの数だけ多様なのだろうか。いっけん本質を突くかのようなこの疑問は、この学問の性質とは相反するため、答えようのない問いなのかもしれません。興味のある方は本学府ならびに、九州大学の他学府の教員が執筆に加わった『メイキング文化人類学』(世界思想社、2005)をご覧ださい。解答への手がかりくらいは、発見できるはずです。
 さて、本学府における文化人類学教育の特徴は、「文化人類学とは何か」という根源的疑問を考える
ことを忘れずに、この学問の歴史を学び、それを継承し実践するということです。歴史が重要なのは、知識生産のための方法論しか問題にされなくなっている現在、学問はルーティン化し、「座学連携」というスローガンのもとに、知識と権力が癒着し、学問が自立性を失いつつある状況に抵抗するためです。たとえば、異文化理解としての人類学、フィールドワークの学問としての人類学、周縁化されてき
た民族を援助するための基礎知識を提供する人類 学、というこの学問に対する一連のイメージ群があ ります。本学府の文化人類学教育の目標に照らし合 わせると、それらのうちひとつだけ正しいものを選 択するのではなく、それらが生まれ流通し始めた時 代における可能性を現在に生かすためには、それぞ れのイメージをどう再解釈する必要があるのかを再 帰的に考察することになります。このような再帰的 考察を、個人の研究プロジェクトに組み込むという ことです。
  文化人類学のイメージが多様なため、つかみどこ ろのない学問という印象を与えるのは、その対象 テーマの多様さにひとつ原因があるのかもしれませ ん。タイ北部地域の霊媒たちの活動、フィリピン労 働者の世界規模での移動、ルワンダ難民たちの歴史、 宝塚歌劇団とジェンダー・イデオロギー、先住民の 活動と環境保全運動の関係など。論理的には、ここ でそれらをすべてまとめているのが、文化人類学の 本質であり、それを知れば、上の疑問には答えるこ とができるはずです。けれども、いまだにそれに成 功したという文化人類学者はいないようです。そも そも、本質は変化するものです。
  とらえどころのない本質をもつ学問ですから、境 界は異物を排斥するためにあるのではなく、境界は 越境するためにあります。文化人類学は、異なった 学問領域の歴史や問題系を尊重すると同時に、それ らと対話しようとする姿勢を保持しています。(簡 単にいえば、この学問は学際的なのです。これは論 理矛盾ではありません。)
  これまでのバックグランドが文化人類学ではなく とも、広く人文系学問の素養――たとえば、哲学、 文学理論、社会学やカルチュラル・スタディーズ、 言語学、歴史学など――があれば、この学問への扉 は開かれているのです。
  それでは、具体的に文化人類学教育のカリキュラ ムを紹介します。文化人類学を学ぶ院生は、かなら ず「文化人類学総合演習」を履修します。通年で6 冊の(「古典」といわれている)民族誌を読み、教 員全員と博士課程の院生一名を加えゼミ形式の討論 をおこないます。本学府の文化人類学教育では、最 近の研究動向だけではなく、文化人類学の基礎知識 もしっかり習得することも目標です。次に、各教 員の担当する演習を履修します。ここで、最近の研 究動向が紹介されることになります。文化人類学以 外の領域へと積極的に越境するテーマが選択されま す。たとえば、先住民運動と国際法、30 年代米国 社会と民族誌、未開芸術と博物館展示、グローバル 経済と文化のローカル現象などです。(各演習のシ ラバスは、比較社会文化研究院のHP にて掲載中 です。)
  修士課程や博士課程の院生たちは、文化人類学以 外にも、社会学、歴史学、思想史などの演習にも参 加し、自らの研究テーマに生かしています。また、 九州大学の人間環境学府(箱崎地区)にて開講され ている関一敏教授、浜本満教授、坂元一光教授、飯 嶋秀治准教授などの演習を履修することもできま す。
  現在、修士課程と博士課程に合計9名の学生が在 籍しています。たとえば、トヨタ財団の助成を受け、 新潟県阿賀野川近郊の村落の再生についてフィール ド調査をしている院生、社会主義体制からの移行期 にあるモンゴルの少数民族についての研究結果を博 士論文に仕上げようとしている院生、メキシコ政府 奨学金を受給し、メキシコのペンテコスタル派キリ スト教徒の改宗をテーマにした博士論文を執筆中の 院生、など多様な院生が学んでいます。
  本学府は94 年に創設されました。人類学は他の 学問領域とは異なり、従来の書斎や古文書館での研 究だけではなく、現地語の習得を前提としたフィー ルド調査が重要な位置を占めてきました。そのため、 博士課程を修了するまでに、大学院修士課程入学か ら数えて10 年くらいはかかります。本学府では、 これまで文化人類学を主専攻にして、4名が博士号 を取得しており、現在数名が博士論文を執筆中です。 博士号取得者あるいは博士課程満期退学者のうち3 名は、研究者として(旧国立)大学に就職をしてい ます。修士課程を修了した院生は、ほぼ100%就 職しています。
  これまで本学府で学んだ院生たちの多くは、自立 した精神をもち、独自の関心を掘り下げる能力を もった人材でした。いまでも、その伝統は生きてい ます。わたしたち教員は、既存のパラダイムのなか に閉じこもり、パズルを解くこと――自らはパズル をつくりださすに――だけに関心のある小器用さを もった人ではなく、荒削りでも広い知識と関心を大 胆に結びつけ、自らの研究課題を構想できる独創性 をもった人を求めています。