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 E. ヴォーゲル先生講演会 9月7日に開催されました!


  地球社会統合科学府の新設を記念し、9月7日(土)午後、ハーバード大のエズラ・F・ヴォーゲル名誉教授をお迎えして  九州大学講演会を開催いたしました。
  先生は日本と中国で、それぞれ『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)、『現代中国の父 鄧小平』(日本語版は2013年、
 中国語版タイトルは『鄧小平時代』)というベストセラーを生み出した、世界的に著名な社会学者です。
  第一部では、先生に「グローバル社会のなかの日中関係:鄧小平研究を踏まえて」というテーマで、自らの鄧小平研究と
 日中関係への見通しについて語っていただきました。
  パネルディスカッションの第二部では、本学の施光恒准教授と堀井伸浩准教授がそれぞれ政治と経済の角度から先生に
 問題提起し、白熱した議論が展開されました。
  講演会はすべて日本語で行われました。
  当日は雨模様にもかかわらず、200人近い方々にご来場いただきました。
  どうもありがとうございました。
                     記
      1. テーマ:「グローバル社会のなかの日中関係:鄧小平研究を踏まえて」
      2. 日時:9月7日(土) 午後2時半~4時
      3. 場所:箱崎キャンパス国際ホール
      4. 主催:九州大学大学院 地球社会統合科学府 設置準備委員会
                                                        以上
                                                 (文責・益尾知佐子)





挨拶に立つ服部英雄学府長




第一部 ヴォーゲル先生講演会:鄧小平の歴史的役割をスライドを使って説明




第二部 パネルディィスカッション:(右から)ヴォーゲル先生、

討論者の堀井伸浩准教授および施光恒准教授




エズラ・ヴォーゲル先生講演会 参加報告


比較社会文化学府 修士1年 上村 駿介


  平成25年9月7日(土)、ヴォーゲル先生による講演と、九大大学院の先生方を交えたパネル・ディスカッションを聴講した。
  この講演会には200人近い聴講者が集まった。私は講演会が開始される約1時間前から講演が始まるまで、一般の聴講者に会場までの道案内をするため、本講演会のポスターを持って九州大学箱崎キャンパスの小松門前にいた。聴講者は九大の関係者のみならず、悪天候のなか学外の一般の方も多く、たくさんの方に講演会場までの行き方を尋ねられた。
  14時半より約90分間の講演会が始まり、ヴォーゲル先生のお話とパネル・ディスカッションに、半分ずつ時間が割かれた。第一部の講演では「グローバル社会のなかの日中関係:鄧小平研究を踏まえて」というテーマで、ヴォーゲル先生からお話があった。
  まず、『現代中国の父 鄧小平』という新しく出版されたヴォーゲル先生の本について、先生は鄧小平を研究対象にした目的を語られた。アメリカ人であるヴォーゲル先生にとって、「今のアメリカ人が学ぶべき対象は中国であり、現代中国を作り上げた先駆者が鄧小平であったこと」が研究の動機であったと説明された。先生は1979年に『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を執筆されているが、その当時のアメリカ人が学ぶべきは、高度成長により発展を遂げた日本であったとも話された。
  講演は鄧小平の改革開放政策をテーマに、共産主義思想との関係や、毛沢東との政治手法の違いについてなど、興味深い内容が取り上げられた。そのなかで、私が特に関心を抱いたのは、鄧小平の教育改革についてである。ヴォーゲル先生によると、改革開放政策は中国における市場開放といった経済的側面が強調されがちであるが、鄧小平は教育・科学・技術分野の向上も非常に重視したという。文化大革命によって停滞した教育の再生として、10年以上中止されていた大学入試の再開や、先進諸外国への使節団派遣を行ったとの内容であった。
  ヴォーゲル先生は公演の最後に日中関係について触れられ、今の日本にできることを提言された。先生は靖国問題など両国の緊張を高めるような問題に関して、日本は中国に挑発的と思われる行動はとらない方がよいと話された。また、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』にあるように、歴史上戦後日本ほどすばらしい国はないということを日本国内で教育すべきだとの提案があった。
  第二部では、比較社会文化学府の施光恒准教授と堀井伸浩准教授を交えたパネル・ディスカッションが行われた。ここでは、私が個人的に興味深く感じたやり取りをひとつ紹介したい。施准教授は「中国における民主化の可能性、及びその土台としての国民間の連帯やまとまり」についてヴォーゲル先生に質問された。ヴォーゲル先生は台湾を例に出し、中国の民主化が「台湾と比べれば難しいが、長い目でみて、その可能性は常にある」と答えられた。また、日本では明治時代に行われた『学制令』を発端に、時間をかけて日本国民共通の文化が創り出されたのではないかという持論を展開し、現代中国においても文化による連帯意識が徐々に醸成される可能性を示された。
  本講演会を通じて、ヴォーゲル先生は日中両国について、あるいは日中関係について、非常に緻密に分析され真摯な提言をなされていた。先生の知識はもとより、探求心や熱意に、私は強く感銘を受けた。

講演会の論点
①鄧小平の来日
  鄧小平は、1978年に日中平和友好条約の批准書交換のために来日。その際、日本企業の技術視察(新日鉄社長に会ったり、新幹線に乗ったり)のほか、天皇陛下との会談も行われた。ヴォーゲル先生によると、鄧小平は、昭和天皇が第二次大戦で中国に悪いことをしたと認めたことに非常に満足していた。
②毛沢東主義との関係
  鄧小平は「文化大革命」で68年に失脚している。70年代に復帰し、権力の中枢につくときには、共産党左派からの反発も強かった。改革開放を目指す鄧小平にとって、毛沢東主義をどのように評価・総括するかは切実な問題であった。ヴォーゲル先生によれば、鄧小平は80年代に歴史勉強会を作り、そこで多少間違いはあったが、毛沢東は尊敬すべきだという認識に達した。7割正しい3割くらいが誤り、その3割を修正しようという解釈である。共産党が分裂しないための策であった。
③民主化と弾圧
  鄧小平は中国の経済的な豊かさを求めた一方で、現在に至る国内の共産党支配を強固なものにした張本人と言えないだろうか。毛沢東時代とは異なり、資本主義者が弾圧の対象になることはなくなったが、89年の天安門事件の際に、武力鎮圧に踏み切ったのも鄧小平である。国内で中国共産党を批判することは許されない状況は鄧小平時代から変わらず続いていたのである。
④愛国心教育
  天安門事件以降中国は、国内の愛国心教育を「日本帝国主義」を批判することで強化した。民主化の動きを抑えることと同時に、共産党の正当性を愛国心教育で国内に宣伝した。また、国内のフラストレーションが共産党批判に繋がらないよう、日本に向けるとのねらいがあると一般に言われている。ヴォーゲル先生は、日中関係が悪化したのは鄧小平が辞めた後からだと述べていた。
⑤スケープゴート論
  聴講者による質疑の際に、ひとつ面白い質問があった。「中国の文化大革命は結局『四人組』に全責任を押し付け、彼らが悪かったということで総括されたのではないか。これは、ドイツ人が第二次大戦ではナチスが全て悪かったということで、国民ひとりひとりの責任を回避しているのに似ている。一方で日本人は、A級戦犯に戦争の全責任があるというような考え方をしない。(この問題をヴォーゲル先生がどう返すか期待していたが、特に明確な答えがなかった)
⑥施先生の質問
  中国では国民をまとめることに非常にコストがかかる。孫文は中国社会が『ばらまかれた砂』のようだと表現した。以前は共産党のイデオロギーでまとめていたが、今は悲しいことに、中国では反日愛国心教育によって国民の連帯意識を作っている。さらに、今後経済成長が鈍化してくると、より排他的になる可能性がある。中国で文化や生活様式に重点を置いた、あまり政治的でない穏健な愛国主義教育はできないものか。また、民主化の可能性はあるのか。その際、担い手となるのは中間層か、あるいは学者や学生か。中国流の民主主義があるとすれば、それはどういったものか。
⑦中国はナンバー・ワンになるのか
  一般の方が、中国が世界一になる可能性を尋ねられていた。ヴォーゲル先生は、GDPでは世界一になるかもしれないと答えながらも、国内の問題が山積しているために、真にナンバー・ワンになれるかには疑問が残るという。例えば、10年後の学生たちが中国とアメリカのどちらかで勉強するか問えば、まだアメリカの方が多いと思うと述べられていた。
⑧日本は凋落したか
  施先生は『ジャパン・アズ・ナンバーワン』について、現在の日本人が読めば、どこか遠くの国の話のように感じると話された。堀井先生は現在の日本にどのような警鐘を鳴らされるかとヴォーゲル先生に質問された。ヴォーゲル先生は、日本は経済的に苦しくなったとはいえ、生活水準では欧米と比較しても悪くないと述べていた。